顎関節症

顎関節とは?

顎関節とは?

顎関節は、下顎骨と側頭骨をつなぐ関節で、口を開け閉めしたり噛んだりする際に重要な役割を担っています。顎関節は、物を食べたり話したり口の開閉を行う関節ですが、実際動いているのは下顎だけで上顎は動きません。

この下顎骨と側頭骨という2つの骨と、その間の関節円板という軟組織から構成されているのが顎関節です。

顎関節の構造

下顎骨にある下顎頭(かがくとう)と側頭骨(そくとうこつ)にある下顎窩(かがくか)と前にある関節結節で顎関節(がくかんせつ)を構成します。2つの骨の間にはクッションの働きをする関節円板(かんせつえんばん)が滑液とともに存在しています。

下顎骨を動かす筋は、閉顎に働く咀嚼筋(咬筋)、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋、開口に働く舌骨筋群があります。下顎骨にはこれらの筋が付着しており、顎運動を行います。

咀嚼は個人差がありますが、リズムパターンをもち下顎運動を行います。このリズムが狂うと、下顎頭や関節円板には大きな力がかかり変形やずれが生じ、摩耗や吸収が起こることがあります。

関節円板が通常の位置からズレると、口が開けづらくなりますが、口を開けたときにズレが戻る場合は関節音が生じ、ズレがもどらない場合は口が開けられなかったり、顎関節に痛みを感じたりします。

しかし、顎関節症の多くは、常時痛みがあるわけではないので、痛みがなくなるとそのまま放置されがちです。

ところが、関節円板は徐々に前方にズレていて、突然、口が開けられなくなることもあります。また、関節円板が変形していて元に戻らなくなることもあります。

顎関節症とは

顎関節症とは

顎関節症とは、「⼝を開けると痛む(開⼝時痛)」「⼝が開かない(開⼝障害)」「あごで⾳がする(関節雑⾳)」といった症状がでます。これらの症状は、あごの関節を構成する⾻・筋⾁(咬筋・側頭筋など)・関節円板・靭帯などの異常によって⽣じます。

タイプ別にⅠ型(筋⾁の異常)、Ⅱ型(関節靭帯の異常)、Ⅲ型(関節円板の異常)、Ⅳ型(⾻の異常)、Ⅴ型(どれにも当てはまらないもの)があり、タイプによって治療法が異なります。

顎関節症の治療のゴールは、「痛みなく」「⼗分に⼝が開く」ことです。「関節雑⾳」を⼿術で治療していた時代もありましたが、現在では症状が「関節雑⾳」だけの場合は治療の必要はないとされています。

顎関節症の男女比は、女性が男性の2~4倍程度とされています。特に20代~30代の女性に多くみられます。顎に何らかの症状を持つ人は全人口の70~80%に上るとされていています。

顎関節症が
女性に多いのはなぜ?

  • 女性は男性と比較し、骨の形成が華奢であり筋肉が細くて弱いため、食いしばりなどによるダメージを受けやすい
  • 女性の方が男性よりも筋肉の緊張やストレスに対して敏感なため
  • 女性ホルモン分泌異常が顎関節部の骨と関節に影響するため

顎関節症の原因

顎関節症の原因

顎関節症の原因は多岐にわたり、1つの原因ではなく複数の原因が合わさって発症することが多いです。

  • 噛み合わせの乱れ
  • 食いしばりの癖、歯ぎしり
  • 慢性的なストレス
  • 頬杖、うつぶせ寝、不良姿勢
  • 頬の内側、舌、爪を噛む癖
  • 事故などによる外傷
  • 顎の酷使
  • (虫歯などが原因で)片側の顎ばかり使う
  • 睡眠障害

顎関節症が及ぼす影響

  • 顎の痛みやこわばり
  • ⼝が開かない、開けづらい
  • 顎を動かすときに⾳がする
  • 肩こりや腰痛
  • 頭痛や⽿鳴り
  • ⽬の疲れ
  • 顔の形や⼤きさが変化する
  • 噛み合わせが悪化する
  • 息が苦しい
  • ⼿⾜にしびれがある

顎関節症患者が避けるべき習慣

顎関節症を予防・改善するには、日常生活の習慣を見直して、顎関節や咀嚼筋への負担を減らすことが大切です。

避けるべき習慣には、次のようなものがあります。

  • 頬杖をつく
  • うつ伏せで寝る
  • 片側で噛む
  • 歯ぎしりや食いしばりをする
  • ガムを頻繁に噛む
  • 硬い食べ物を噛む
  • 無理な口の開閉をする
  • 悪い姿勢を続ける
  • 息が苦しい
  • スマートフォンを長時間使用し続ける
  • パソコン作業を長時間行う

また、ストレスを溜めると顎の筋肉が緊張して顎関節症の原因となるため、リラクゼーションや適度な運動を取り入れてストレスを軽減することもよいでしょう。

顎関節症の治療内容

顎関節症の治療内容

傷ついた顎関節を「完全な元の状態に戻す」ことはできません。治療により「痛みが完全になくなる」「口が以前と変わりなく開く」ようになることができれば、それが一番理想的です。

つまり、「痛みをやわらげること」、それから日常生活で不便のない範囲で「口を開けやすくすること」が、顎関節症の治療の目的になります。

薬物療法

主に痛みを緩和することを⽬的に以下のような薬を使⽤します。

  • ⾮ステロイド抗炎症薬(ロキソプロフェン、ジクロフェナク、ナプロキセン)
  • アセトアミノフェン

スプリント療法

スプリントの目的は、顎関節症の症状の緩和です。スプリントを装着すると、食事に使う筋肉(咀嚼筋)や顎の関節の緊張をやわらげることができます。これにより、顎関節症の症状、つまり顎関節の筋肉の張りや痛み、さらには頭痛や肩こりなどの改善が期待できます。

上記の治療で3ヶ月以上改善しない場合には手術も含めた専門的な治療が必要になることがあります。顎関節のスプリントは就寝時に着用します。

スプリントは患者さん個々の歯型を採って、オーダーメイドで制作したプラスティック製のマウスピースのようなものです。月に1度来院いただき調整をしていきます。

スプリントの使用によって噛む力をすべての歯で均等に負担して顎関節に強く偏った力がかかるのを防ぐことで、徐々に関節内部の構造が安定化していき、同時に下顎の位置も安定していきます。

理学療法

顎関節周囲をさする、揉む、押すなどのマッサージを行ったり、ホットパックなど用いて組織の温度を上昇させることで、周囲の血流を増加させたり筋緊張や痛みを緩和します。

また、口を大きく開くようなストレッチが有効なこともあります。

筋肉マッサージ

人差し指と中指を痛みのあるところに当てます。側頭筋ならこめかみのあたり、咬筋なら耳と頬の間です。円を描くように指を動かし筋肉をほぐします。痛気持ちいい、くらいがベストな推し具合です。

体が温まっているとほぐれやすいです。入浴中や、入浴後に行うのがおすすめです。

開口ストレッチ

※①~④は全て両側のこめかみに指を添えた状態で行います

  1. 顎を右に動かす
  2. 顎を左に動かす
  3. 顎を前に突き出す
  4. 大きく口を開ける

①→④を10回繰り返すのを1セットとして、1日に5セット行います。

あごを動かすときはゆっくり大きく動かします。少し筋肉に負荷をかけながら、全身のストレッチをする時と同じようなイメージで行います。

ストレッチのときに痛みが全然ないのは負荷が足りませんが、痛みが強すぎる場合も良くないので、程よい負荷をかけてストレッチを行いましょう。

ホットパック(温罨療法)

ホットパック、蒸しタオルなどを使用して、あご周辺の組織の温度を上げることにより、血管を広げ、血行を改善させ、筋肉をほぐします。

ホットパックは、急性仏痛で「発熱・発赤・腫脹・仏痛」を伴う炎症症状には使用できません。そのため下記のような部位には使用しないでください。温めることによって、仏痛を増強させたり、症状を悪化させたりする可能性があります。

  • 急性の損傷や炎症のある部位
  • 腫れや熱感のある部位
  • 出血または出血の可能性がある部位
  • 悪性腫瘍のある部分又はその周辺

開口訓練

顎関節症の開口訓練とは、口を開ける練習をして、顎の関節の動きや筋肉の柔軟性を改善する運動療法です。

  1. 親指を上あごの前歯に当て、人差し指を下あごの前歯の縁に当てます。
  2. 指に力を入れて前歯に圧力をかけながら、上下の歯を押し上げるように口を開けます。
  3. 1回につき10回程度、1日数回、無理のない範囲で行います

顎関節症の症状が重く、深刻な痛みを生じている場合は、痛みが緩和するまで開口訓練は行いません。歯医者さんで適切な診断を受け、最適な方法で顎関節症を改善しましょう。深刻な痛みがなければ、開口訓練は継続して行うことが大切です。

噛み合わせ治療

歯が抜けているところをインプラント・部分入れ歯・ブリッジで治療する、被せ物の形を調整する・作り直すといった方法で、噛み合わせを改善します。

噛み合わせの乱れが広範囲に及ぶ場合には、矯正治療が必要になることもあります。